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最後のプロポーズ

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人 物

江古田真美(26)郁人の元カノ

増田郁人(44)無職

店員(女)


〇京王井の頭線・東松原駅近くの庄屋・店内(夜)

個室にひとり座っている江古田真美(26)。煙草を吸いながらハイボールをラッパ飲みしている。そして、店員(女)に声をかける。
真美「……すいません」
店員「はい、ご注文でしょうか」
真美「いえ、あの。あたし、来てから何杯目かなって……ハイボール」
店員「えと……今伝票では六杯目になってますね」
真美「あ、机の下の伝票見ればよかったのか。すいません。あ、あの、じゃあもう一杯追加で……」
店員「かしこまりました。あの、いらしたときに二人とお聞きしたのですが、もう一人の方はどのぐらいでいらっしゃいますか?」
真美「……あー……すいません、まだわからなくて。二人分飲みますのでもうちょっと待ってください!」
店員、少し笑って。
店員「わかりました。ハイボール、追加で承りました」
店員、去る。
真美「郁人、来るかなあ……既読にはなってるけどさ…」
真美、笑いながら大粒の涙を溢す。

 

〇増田郁人(44)の狭い1K・中(夜)

とても狭い。何年も洗われていない布団と詰みあがったレコード、アンプ、ギターなどがごっちゃになっている。黒革がべろりと破れたソファで、LINEの真美のトーク画面を観ながら煙草を吸っている。LINEのメッセージには、「4年ぶりに会いたいです。あの庄屋でいつまでも待ってます。今日です。言いたいことがあります。」とある。増田、ハンガーにかけてあるズタボロの革ジャンを着て、玄関に置いてあった黒いハットを被って、くわえ煙草のまま、アパートから出る。

 

〇京王井の頭線・東松原駅近くの庄屋・店内(夜)
増田が、真美の席にやってくる。真美、スマホで増田とのツーショットを観ながら泣いている。
増田「……真美」
真美「……おう」
増田「おう、ってなんだよ。もう既に泣いてんじゃん(笑)」
真美「いや、まさか本当に来るとは思ってなかったっていうか…会ってくれたっていうか……嬉しくて……でも……ほぼ諦めっていうか…あんたに関してはあたしはいつも負けてきた。仕事はうまくいったのに」
増田「……」
増田、店員に手を上げる。店員、やってくる。
増田「生1つで」
店員「かしこまりました」
店員、去る。
真美「今日はあたしの奢りだから。ガンガン飲んでいいよ。でも、どうせ三杯目ぐらいで呂律回らなくなるの、知ってるから(笑)」
増田「今は、昔ほどバカみてえに飲まなくなったよ」
真美「本当!? 嘘つくな」
増田「嘘じゃねえよ(笑)でもさ、真美も、しつこい」
真美、うつむいて。
真美「ごめん」
増田「……会うのは、今日が、最後」
真美「……」
増田「LINEもブロックする」
真美「……」
増田「でもその代わり、今日は思いっきり相手してやる。でも、オレは、お持ち帰りも、結婚もしない」
真美「あたしの欲望全部最初から否定しないでよ……」
真美、顔をくしゃっとして笑う。それを見て、増田、直視できずに視線を落とす。
増田「ごめん……」
真美「いいよ。今日は、最後のプロポーズしにきたんだ」
増田「……十八も上のおっさんに?」
真美「うん。そうだよ、プロポーズ。あたしは恋愛は十年スパンだと思ってるから。ダメでも、ダメでも、諦めない。はずなの。でも……」
増田「でも?」
真美「今日で終わりにする。あんた関連のこと全部」
増田「……」
真美「あたし、好きじゃない人と結婚します」
増田「結婚!? ……じゃあオレが奢るよ。おめでとうじゃん」
真美「ちょっと待って。今日はあたしに話させろ。だいたい、あんた一文無しだろ」
増田「でも……結婚するならなんでプロポーズなの? その、夫さんに失礼だろ。やっぱり、オレ、帰るよ」
増田、席を立とうとする。
真美「待って!!」
その真美の大声に、別の個室のひとたちの視線が二人に集まる。
増田「大声出すなよ……」
真美「結婚してください」
増田「……だから、真美。オレはもう四十四だし、ガキも二人いるし、もうそのガキだって高校生だし、養育費もアレだし……」
真美「あんたのマイナスを、全部あたしが引き受ける」
増田「真美……なんでそこまでオレに執着」
真美「執着なんかじゃない。愛してるの」
増田、思わず、涙を流して、ロンTでそれを拭く。そして近くの店員に向かって。
増田「……すいません、生のお代わりを」
店員「かしこまりました」
真美「あたしは4年ぶりに会えると思って、そのために、3kgダイエットしたし、黒髪ロングにして雰囲気も変えた。今、仕事が成功した今なら、昔はお互いお金なくてできなかった引っ越しも。同棲も。バツ2でも結婚も。その資金も。養育費も。全部あたしが負担できる。あとはあんたの気持ち次第」
増田、ますます涙が溢れて。
増田「やめてくれ……オレはただのおっさんだぞ。お前はなんでそんないつも……」
真美「あんたに魂抜かれたのよ。あんたが悪い。地獄まで追いまわすから」
増田「……生1つお代わりで」
近くにいた店員、頷いて。
真美「ズタボロで上京したての20歳のころ、父親から殴られた傷を、『パンクで、かっこいいな』って言ってくれたの、あんただけだったの。これまで、否定されてきた人生を、あんただけが初めて肯定してくれたの」
増田「そんな重い話じゃないだろ……」
真美「言葉は受け取った者が判断して処理するものです」
増田「すいません、生もう一つで」
真美「そろそろもう意識が遠くなっていくころだね。ありがとう、今日は来てくれて。本当に嬉しかった。あんたの全部、この目に焼き付けた。大丈夫。これからも生きていける。もう、連絡しないよ。さようなら」
真美、立ち上がって、机の下の伝票を持って、カウンターに行こうとする。増田、思わず、その腕を掴む。
真美「……やめてよ」
増田、席でそのまま泣き崩れて。真美も号泣しながら、その手を振りほどき、カウンターに行く。